活動方針

強度設計・安全性評価部門委員会は,1983年5月の設立より40年間にわたり存続してきました.当時の設立趣意書には,その目的として“研究部門と設計部門のギャップを埋める委員会を組織する”と記されています.具体的には,機械構造物の経済性,信頼性の向上に関する社会的要求に,材料特性,強度評価,応力解析,応力測定,外力推定,信頼性解析などの先端的な研究成果を効率的に適用可能とする活動を実施するとされています.

設立から40年が経過し,研究と設計の部門においては種々の面で大きな変化が生じています.研究についてはさらに細分化が進み,その内容は深まりました.一方,設計については各分野の研究を反映した規格類が制定され,そして研究の理論的な成果をシステム化したCAEが出現しました.これらにより利便性が向上しましたが,ブラックボックス化が進展しました.

このような時代背景に基づき,当部門委員会では従来の趣意書に基づく活動方針を見直すため,部門委員へのアンケート,および2度の意見交換会を実施しました.これらの意見に基づき,当初の趣意書の目的を尊重し,さらに以下の4項目の活動方針が加えられることになりました.


以下に各項目の概要を示します. 

1 機械,土木,建築,医療などの分野の規格・基準における強度評価法の調査・討議

各分野での強度・安全上の課題に対する研究の成果は規格・基準の形で制定されています.

しかし,これらの規格・基準に含まれる規定は簡潔に記述されたものであり,その根拠や制定の経緯についての解説も不十分なケースが見うけられます.

材料学会の特徴は,多様な分野から会員が参加している点にあります.したがって,鉄道,船舶,航空機,自動車,各種プラント,医療機器などの規格・基準における強度評価手法を比較・検討することが可能となります.このような調査は参加者の視野を広げるだけでなく,各分野における今後の学術研究のテーマ発見への寄与が期待されます.

そこで,たとえば,以下に示す分野の規格・基準における強度評価の内容ついて,その背景・考え方・根拠などを調査し,今後の研究の方向性について議論します.

・日本機械学会発電用設備規格委員会によって制定されている火力および原子力発電プラントの設計・維持に関する規格
・国土交通省国土技術政策総合研究所・国立研究開発法人建築研究所の監修による“建築物の構造関係技術基準解説書”に含まれる法令・基準
・建設機械の強度設計基準
・医療分野における強度評価規格 

2 強度設計におけるCAEにおける強度評価についての調査・討議

現在,汎用CAEソフトが製品の設計段階で用いられるようになっています.

このソフトを強度設計の対象となる問題に適用すれば,とりあえずはその構造系の変形や応力が得られます.その際,材料特性,要素分割,境界条件などの設定については,工学的な判断に基づく必要があります.得られた応力・ひずみは,製品ごとに制定された強度に関する規格や指針に基づいて評価する必要があります.

そして,強度評価用ソフトを別途利用する場合には,その内容についての理解が求められます.
解析品質の保証,製品の開発効率・性能・安全性の向上に寄与する技術者のレベル評価のため,たとえば,日本機械学会では“計算力学技術者(CAE技術者)資格認定”を制定しています.一方,各種プラントの配管や建築物に対しては,それに特化したCAEソフトが開発されており,一般にそこには強度評価の機能が組み込まれています.

CAEの実務における強度評価の実施方法について,研究と設計の両分野の関係者は,十分に把握しておく必要があります.そこで,たとえば以下のCAE関連のテーマに対し,関係者より強度評価に関する知見を入手することで,その問題点や課題について討議します.

・機械学会の計算力学技術者資格認定における強度評価の位置づけに対する調査
・各種プラントの配管および建築物に特化したCAEソフトに含まれる強度評価機能の調査 

3 強度・安全に係る不具合事例の紹介と討議

各企業での実製品に関する設計開発や破損事例等の紹介・討議には制約があります.

そこで,既に公表された過去の事例を取り上げ,関係する要因の新たな研究成果に基づく解釈や対策の可能性について討議します.
取り上げる事例については,当部門委員会で報告されたもの,“材料”,“機械学会論文集”,“機械学会誌”などの学術誌,国土交通省などの公共機関が公開している情報,その他商業誌などから,討議のために適切な事例を選択します.

たとえば,以下のような情報が入手可能です.

・ASMの関連団体Failure Analysis Societyの出版物:ASM Handbook Volumes 11, 11A, and 11B Failure Analysis Setおよび雑誌Journal of Failure Analysis and Preventionの記事
・日本機械学会から1984年に発刊された“機械構造物の破損事例と解析技術”
・航空重大航インシデント調査報告書,たとえば,“ボーイング式777-200型発動機の破損に準ずる事態”
・鉄道重大インシデント調査報告書,たとえば,“東海道新幹線 名古屋駅構内 車両障害”(溶接台車き裂) 

4 特定の課題に係る情報の集約

設計・製造・品質保証に関わる技術者が対応しなければならない強度・安全上の課題は多様です.それぞれの要因については専門的な立場から学術的な研究が実施され,多くの成果がもたらされています.

しかし,これらの成果は,設計・製造・品質保証の実務に携わる研究者・技術者が参照しやすい形として,十分には集約されていません.対象とする課題は広範であるため,上記の不具合事例紹介の中で浮上するもの,この活動に参画される委員の意見を参考にして絞り込む必要があります.

たとえば,以下の項目が考えられます.

・強度設計で有益な便覧,ハンドブック,資料,展望論文等の一覧,およびそれらの概要の作成.
・繰り返し負荷時の応力集中部に一定寸法の疲労き裂が発生までの寿命推定手法のレビュー(腐食環境・水素の影響を考慮).
・座屈評価を必要とする構造系の特徴とその評価方法のまとめ. 

その他

学会での話題提供・討議では,実験や過去からの知見等に裏打ちされた論証と工学的に有用な結論を述べることが基本となります.一方,断片的な知見や疑問の共有,共通の課題の発見,過去の学術研究の理解,その結果として,新たな研究テーマを見出す場を提供するという活動もあります.

個人的な視点であっても,完全な形でなくとも,強度・安全に関係する研究者や技術者のそれぞれが得意とする分野に関する情報,経験,知見,疑問を提示できる,自由な雰囲気の場を設けることも有意義となります.たとえば,以下のようなアイデアが考えられます.

・話題提供の希望の有無,内容に関するキーワード,必要時間等を予め提示し,自由討議を実施する.
・発言し易くするため,話題提供の内容には特段の制限を設けず,話題提供者の希望があれば,対面の場で資料の配布無しで発言できるものとします.
・博士取得直後の若手研究者の発表と討議の場を設けます.
・個人情報保護の観点から,委員のメールアドレス等は開示されませんが,承諾した委員の間ではメールアドレスを通知することで自由に意見交換ができるようにします.

会議については常にオンラインを併用し,遠方の委員の参加に対して配慮します. 

公益社団法人 日本材料学会
  • 強度設計・安全性評価部門委員会
  • Committee on Strength Design and Safety Assessment 
連絡先

総括幹事 誉田 登 (Noboru Konda)
龍谷大学